世界一の黒さ対決!? VANTABLACK vs 太黒門

世界一黒い人工物 VANTABLACK(ベンタブラック)への挑戦!

皆様こんにちは。黒を愛し、黒に愛される、空前絶後のブラック企業!暗素研の鉄平です。

 

さて皆様、VANTABLACK(ベンタブラック)ってご存知ですか?2014年のファーンボロー国際航空ショーで登場。一時期ギネスワールドレコードにて「世界一黒い人工物 / Darkest manmade substance」として認定され、光を全く反射しない「究極の黒」の代名詞として有名な物質です。イギリスのサリーナノシステムズ(Surrey NanoSystems)社によって開発され、その異様なほど黒い画像はインターネット上で大変な話題となりました。

 

しかしVANTABLACK、入手が非常に困難で実物を拝める機会はまずございません。その黒さを生み出すカーボンナノチューブのナノ構造の脆さや、赤外線域も吸収するという軍事転用も容易な特性からでしょうか。製造やコーティング処理はサリーナノシステムズ社で一手に引き受け、イギリス国外への持ち出しは厳しく管理されているようです。実物が出回りませんのでいまいち実態がつかめない。果たして実際どのくらい黒くみえるのだろうか…。私も国内で行われる光学素材の展示会には毎年顔を出しておりますが、2020年の光学展示会で一度、アクリルケースに入ったサンプルを見たのみです。

 

さて、弊社はお客様の「光の反射問題の解決」のため、長年光を吸収する黒い素材の研究をしております。2022年11月、私達の製品の中で最も黒いシート素材「特級暗黒布 太黒門」の開発を完了し販売を開始いたしました。この製品、自信を持って断言します、「黒い!」と。この黒さはメイドインジャパンの意地、ついにVANTABLACKの黒さに挑戦できる素材になったと考えています。

 

本ブログでは、カタログなどからVANTABLACKの実態を紐解きつつ、弊社の「特級暗黒布 太黒門」との比較をしていきましょう!

VANTABLACKとは?構造と種類について解説

まずは比較対象となるVANTABLACKについて、メーカーカタログの情報から、もう少し詳しく紹介します。

 

VANTABLACKの名前は、Vertically Aligned NanoTube Arrays + BLACK という造語が由来になっています。「垂直に並んだカーボンナノチューブ」による「ブラック」、これがそのままVANTABLACKの構造を表す説明となっています。

 

VANTABLACKの製品紹介ページを見てみると、現在は「S-VIS」と「VBx2」、そして可視光用ではなく赤外線吸収用の「S-IR」という3種類の製品があります。

 

「S-VIS」がカーボンナノチューブによるコーティング。可視光でもっとも黒いのがこちらで、原液を相手物にスプレー後、真空中で熱処理をする工程を経て完成するコーティング処理のようです。そしてもう一つの「VBx2」というのは、カーボンナノチューブを含まない溶剤系塗料。黒さは「S-VIS」に劣るものの、熱処理もなく簡単に大きな面積を施工できるようです。一時期VANTABLACKで塗装した世界一黒いBMW X6 という展示車が話題になりましたが、こちらもこの「VBx2」で塗装されていました。「カーボンナノチューブが入ってなくてもVANTABLACKという名前なのかい!」というツッコミを入れたいところですが。

VANTABLACKと太黒門、どちらが黒いのか!?

いきなり来ました、本ブログで最も重要なテーマ、「結局どっちが黒いのよ?」です。

 

その前に今回の「黒さ」の比較方法について説明させていただきます。「黒く見える」というのは、「観測者から見て、対象物から観測できる光が少ない」という状態のことです。今回比較する素材は発光せず、光が透過するようなものでもないので、「外部からの光をどれだけ反射するのか」を測定し黒さとして評価します。

 

でも光沢があったり無かったり、また表面の形状により、反射した光がどこに飛んでいくかは様々です。あちこちに飛んでいく反射光を残さず捕集できるよう、試験は積分球という特別な器具の中で行われます。このような方法ですべての反射光を合計して計測した数値を「全半球反射率」や「全反射率」と呼びます。また光源は法線から8°の角度で照射するため、AOI (Angle of incidence)  8°と記載しております。

弊社のウェブサイトやカタログで記載している反射率は、全てこの測定方法で統一されています。これは代表的な測定方法ですが、企業によっては違う測定方法で得られた反射率を提示している場合がありますので、一概に比較できません!特に全反射率と書いていない場合は要注意です。 

全反射率試験の概要
全反射率試験の概要

 もう一つ、光は電磁波であり、人間は400~760nmの波長の電磁波を光として知覚できます。中でも人間の目は、その中央の値となる550nm付近、黄緑色に相当する波長に対して最も感度が高くなっています。つまり波長550nmの光に対する全反射率が、人間の目からみた黒さ(明るさ)の大きな部分を占める要素となります。今回比較するVANTABLACKも太黒門も、可視光域の波長はまんべんなく低い光学特性を持っておりますので、本ブログでは「550nmにおける全反射率」を基準に黒さを比較していきます。長くなりましたが説明は以上です。

 

さてここでサリーナノシステムズのホームページより英語のVANTABLACKカタログを見てみると、反射率の数字がTHR(=全半球反射率)@8°と表現されております。この表記により弊社の測定方法と同じものと思われますので比較ができそうです。

ちょうどVANTABLACKのカタログには代表値として550nmでの全反射率が記載されているので、比較してみましょう。

品名 550nm  全反射率 AOI8°
VANTABLACK S-VIS 0.3%
VANTABLACK VBx2 1.0%
特級暗黒布 太黒門 0.10%

なんと、本条件での光吸収性能は遥かに太黒門が上回ります見た目で比較した場合、より黒く見えるのは太黒門ということになります。世界一黒い人工物の候補として、ギネスに申請しようかしら。

 

いやいや、実はVANTABLACKには、元々CVDというカーボンナノチューブを化学気相成長により発生させたコーティングがあり、そちらが最も黒いグレードとなっております。ギネス認定されているのもこのCVDグレードのようですね。これがラスボスです。しかしどうも量産には向いていないのか、2022年現在はメーカーカタログにもホームページにもCVDグレードの記載もデータもありません。ただ過去に公開されていたカタログを見ると、「550nm での全反射率は0.13%」という記載があります。このデータが事実であれば、VANTABLACK  CVDグレードは太黒門とほぼ同程度の黒さとなります。

とりあえず黒さ勝負は引き分けということで。

 

さあ、全反射率0.10%とは一体どんな黒さなのでしょうか?すこし実験してみましょう。

 

こちらは太黒門の上に被写体を置いて、フラッシュ直射で撮影した画像です。全反射率0.10%ともなるとこの強力なフラッシュでも光を反射せず、黒一色の背景に変えてしまいます。驚異的な光吸収性能を実感して頂けると思います。

太黒門 フラッシュ撮影
太黒門 フラッシュ撮影テスト

ついでに、全反射率0.3%の弊社商品「無反射植毛布」と、この0.1%の太黒門を比較して見ましょう。

写真は左半分に無反射植毛布、右半分に太黒門を敷いて、プラモデルを置いて撮影したものです。露出は一段ずつ上げています。

全反射率0.3%も十分に黒い!普通の露出なら十分真っ黒です。(弊社の代表的な製品、世界一黒い水性塗料「真・黒色無双」も全反射率は0.6%あります。)

しかし、露出を過剰に上げて撮影していくと、0.1%との圧倒的な黒さの差が見えてきます。写真背景用途にはオーバースペック?ハッキリ言ってそうです。黒い背景は後加工で編集もできますし、ここまで露出を上げる撮影環境もなかなか無いでしょう。でもカメラ越しではなくその目で実物を見てみると、黒さの違いは一目瞭然に分かります。ぜひ実物をご覧になって欲しいところ。吸い込まれるような圧倒的な黒はそれ自体が主役の表現になり得ますし、例えば美術館や博物館の展示の背景であれば、展示物は現実世界から奥行きの無い空間に切り離され、作品の鑑賞に没入することができるでしょう。他にも圧倒的な黒さから、先端的な撮影技術の資材としての価値もあるかもしれません。全反射率0.1%はそれほどすごい「黒」なのです。

VANTABLACKと太黒門、どちらも素晴らしいよホントに

本ブログでは全反射率のデータを元にした黒さの比較を行いました。太黒門の黒さ以外の利点も挙げておくと、起毛布ですので耐接触性がございます。多少触ったところで表面の光学性能が劣化するわけでもないですし、幅1100mm x 22mサイズが原反ですので、大きな面積を覆うこともできます。お取り扱いが容易なため宅配便を使って、皆様にこの黒をお届けすることができる訳です。裏は両面テープも付きますので、光学機器部品にもいいですよ。>>直販ページはこちら。

 

しかしVANTABLACKも大変素晴らしい素材です。太黒門は約2.0mmの厚さで光吸収構造を作っておりますが、VANTABLACK S-VISはわずか0.2mmとのこと。光を吸収する立体構造は基本的に厚みがあるほど有利ですので、わずか0.2mmの厚さでこの光吸収率を生み出すVANTABLACKは驚異的です。体積あたりの光吸収性能を考えると太黒門よりも圧倒的に優れているわけです。体重差が思いっきり存在している格闘技の試合のようですね。ちょっとずるい比較でした。

 

 

世の中には色々な光吸収素材があります。それぞれに一長一短の特性がございますので、要は使い分けだと思うんです。太黒門はVANTABLACK同等の光吸収性能と、起毛布としての扱いやすさを兼ね備えた素材ですので、様々な用途における最適な選択肢になると確信しております。安価なA4サイズから販売しておりますので、アーティストから光学技術者の方まで、VANTABLACK代わりの「黒の切り札」をぜひお手元に一枚ご用意下さい。新しい表現、技術開発のヒントになるはずです。

 

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